昔、NHKの海外ドラマで、アガサ・クリスティー原作の名探偵ポワロというものがありました。
主人公のエルキュール・ポワロは、デビッド・スーシェさんが演じていました。
吹き替えは、熊倉一雄さんでした。
熊倉さんは、とても個性的なお声で、多才な俳優さんであり、声優さんなのですが、ちょっと声のアクが強いので、細川俊之さんでの吹き替えも聞きたいなあ、と思ったことがありました。
というのも、二か国語放送で、デビッド・スーシェさんご本人の声を聞くと、何となく若山弦蔵さんの系統のような声に感じたからです。
どちらかと言うと、ソフトで響きのある感じの系統のような。
そうこう思っているうちに、細川さんもお亡くなりになってしまい、これを聞くことは叶いませんでしたね。
その名探偵ポワロですが、スズメバチの巣という回がありました。
内容をあまり明かしてしまうのは、ネタバレになってできないかもしれませんので書きませんが、私はこれを個人的な理由で何回も何回も見ました。
ある女医さんの言葉に傷つき(今でいう、ドクハラ、ドクター・ハラスメント)、精神的なつらさや苦しみが、なかなか抜けない時期だったからです。
元々、このドラマは何となく好きでしたが、この回ですっかりファンになってしまいました。
最後の場面での、ポワロの決してベタベタしすぎず、それでいて思いやり深く暖かい対処と、爽やかに去っていく姿には、涙が出ました。
これだ。これこそが、医者の本来あるべき姿だ、と思い、終わりの部分は何度見返したかわかりません。(注)
茶目っ気もあり、ちょこちょこと歩き、ユーモアをたたえながら、最後にニコッと微笑んで挨拶をして、静かに去っていく姿がとても印象に残っています。
相手の内面に干渉しすぎることなく、それでいて深い思いやりを秘め、最大限の配慮をして、最善の対処をする。
決して品格は失わない。
素晴らしい作品でした。
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(注)ポワロは私立探偵ですが、あの回の終局の場面を見ていると、ポワロが、まるで気高(けだか)く素晴らしいお医者さんのように見えました。