おぶなより

世界平和の祈りに寄せて

184_原仏11ー 6

前回 ( 183_原仏11ー 5 - おぶなより ) の続きです。

二 尼僧の告白 の締めくくりになります。

ここに出てくる、イシダーシーさんが、また、わかりにくいんです。

中村さんは、具体的に述べられていて、胸に迫る云々としていますが、私には、どうにも煮え切らないというか、釈然としないのです。

美輪明宏さんの本には、絶世の美女ながらも、固有の身体的な事情により、どうしても愛する人々とは結ばれず、孤独に亡くなられていった女性の話が出ていました。

美輪さんの具体的な書き方でも、ちょっとわかりにくかったのですが、それでも、少なくとも、ああ、世の中には、こんなこともあるのだな、絶世の美女に生まれつきながらも、何と過酷な運命か、と理解することができました。

おそらく、これは経験しないと、当人のその気持ちは絶対にわからない。こうしたものを見ると、当たり前に恋愛をし、当たり前にお付き合いをし、当たり前に結婚をし、当たり前にセックスをする。これが、いかに恵まれているか、ありがたいか、がわかります。

それはともかく。

それに比べると、ここで取り上げられているイシダーシーさんのお話は、あまりにも具体性にかけ過ぎていて、何とも煮え切らないんですよ。

おそらく、美輪さんの本にあった女性に類する何らかの事情か、これに匹敵する何らかの理由があると思われますが、もう少し具体的な内容が書かれていないと、納得しにくいんですよ。

良家の娘であり、育ちもよく、立ち居振舞いも申し分ないし、その上で、夫となった人にも、十分によく尽くした。

それにもかかわらず、3人もの男性に、次々と去られてしまうのです。何か、彼女に起因した、よほどの「特別な深い事情」があるとしか、考えられない。

それを微塵(みじん)も触れずに、外枠だけから中を思いはかれ、わかれ、といわれてもちょっと無理があるように思うんですよね。

まあ、それでも、野暮はやめろ、詮索はするな、思いはかれ、というところなのでしょうが・・・。

彼女は、この 3 度の結婚に破れた末に出家しています。

以下です(段落分けなどの改変あり)。

すぐれた都ウッジェーニーにおいて、わたくしの父は、徳行の篤い豪商でした。
わたくしは、その一人娘で、可愛がられ、喜ばれ、慈(いつく)しみをうけました。

ときに、サーケータに住む名門の人から(遣(つか)わされた)仲人がやってきました。
(名門の人とは)多くの財宝ある豪商で、父は、わたくしをその人の嫁(子の妻)として与えました。

(四〇五 ー 四〇六)

・・・貞淑な態度で、夫に愛情をいだき、高ぶらず、早起きで、怠けず、婦徳がそなわっていたのに、夫はわたくしを憎みました。

彼(夫)は(彼の)母と父に告げていいました。
「許してください。わたくしは出て行きたいのです。
わたくしはイシダーシーと同じ家の中で一緒に住みたくないのです。」

(四一三 ー 四一四)

変ですよね。変です。彼女の表向きのきれいな言葉だけからでは、まったく中の事情がわかりません。何か特別な事情があるはずです。

中村さんは、「破れてしまったのですね」のそっけないたったの一言で済ませていますが。

そこで(父は)次にわたくしを富める第二の家の人に与えました。
(第一の)富商がわたくしを得て(支払った)結納金(身代金)の半分をもって。

(四二〇)

このように、お嫁さんを頂くときには、結納金を支払うのが、当時のインドの習俗だったそうです。

わたくしは、彼の家にも一カ月住みましたが、やはり彼もわたくしを追い返しました。
ー わたくしは婢女(はしため)のように勤(いそ)しみ仕え、罪もなく、戒めを身にもっていたのですが。

(四二一)

不自然でしょう?彼女の言葉からだけでは、到底、内情を理解することはできません。

そこへ第三の男性があらわれました。

托鉢のために徘徊し、自ら制し(他人を)制する力のある一人の男(修行者)に向かってわたくしの父は言いました。
ー 「あなたはわたくしの女婿となって下さい。
ボロ布の衣と乞鉢とを捨てなさい」と。

(四二二)

中村さんによると、乞鉢は、乞食のための鉢です。それを捨てて世俗の生活にかえりなさいとしているそうです。

彼もまた半カ月住みましたが、そこで父に告げました、
ー 「わたくしにボロ布の衣と鉢と飲む器とを返して下さい。
もとどおり托鉢の生活がしたいのです。」

(四二三)

いよいよ、おかしいですよ。世間一般の男性からすれば、忍耐強く、寛容さも備えているであろう、修行者さえも、逃げ出してしまうのだから。

暴くな、という彼女の声が聞こえるように思いますが、もう少し、何かヒントくらいは残しておいて欲しかったんです。

なぜなら、男の人は皆、一切、恨み言を言わず、事情をつまびらかにせず、厳しい非難は覚悟の上で、去っていったように感じるからです。

それとは対照的に、彼女からは自らに何の非の打ち所のないあたかも被害者を装う訴えが出るばかり。

私は、同性だからなのかもしれませんが、内容を黙して語らず、そして、去って行った男性達の彼女を思いやる気持ちもあったはすだ、と思うんですよね。

それは彼女には気の毒だから、あからさまに言うことはできない。直接、彼女に対しても、また、まわりの人に対しても、他人に対しても。しかし、どうしても一緒に暮らすことだけはできないから、行動(去ること)だけはする、言い訳はしない、と。

もしかしたら、彼女の言うように、彼女には何の落ち度もなかったのかもしれない。過去世の因縁により、たまたま、自然にそうならざるを得なかったのかもしれない。その可能性は、確かに残っていますよね。

しかし、この中村さんの本は、基本的に唯物論の考え方で、ものを見ています。神々が出てきても、悪魔が出てきても、霊性を肯定する話の進め方ではありません。

だから、もし、かすかにでも、ヒントが経典に出ているのならば、引用して欲しかったなあ、と思うのです。

だいぶ、脱線しました。すみません。

続きです。

彼は追われて去りました。
わたくしも独りで思いに耽りました。
ー 「わたくしは許しを得て出て行きましょう、死ぬために。
或いは、出家しましょう」と。
そのとき尊きジナダッター尼は、托鉢のために遍歴しつつ、父の家に来られました。
(かの尼さまは)戒律をたもち、道を学び、徳を具(そな)えた方でした。
かの尼を見るや、起(た)って、かの尼さまのための座席を設けました。
坐した尼の両足を礼拝し、食物をささげました。
食物と飲料とかむ食物とそこに貯えてあったすべてのものを飽くまですすめて、わたっては言いました。
ー「尼さま、わたくしは出家したいと願うのです」と。

(四二六ー四二九)

最初の食物は、柔らかくて、吸うように食べる食物だそうです。かむ食物はかたい食べ物をいうそうです。

わたくしは、母と父と親族一同すべての者に挨拶して、出家しました。
出家して七日目に、わたくしは、三種の明知を得ました。

(四三三)

イシダーシーさんも、大変な目に遭ったには違いないのですが、こうも短期間(わずか一週間)で、漏尽通(漏盡通として既述)、宿命通、天眼通の三つを会得(えとく)できてしまうとは・・・。

漏尽通(ろじんつう)は、神様のみ心をわがものとして、はじめて発揮される、素晴らしい力ではなかったのか・・・。

( 183_原仏11ー 5 - おぶなより ) の、アッダカーシーさんの話にもありましたが、こうも短期間で、それも入門してわずかたったの一週間で、こんなにも早々に、次々と悟れるものなのでしょうか。

おかしいですよ。

あの合気道の開祖植芝盛平先生だって、世界平和の祈りを提唱した五井昌久先生だって、あそこまでなるには、もっと時間を要してるはずですよ。

古(いにしえ)のほうが今より修行環境が格段に悟りやすかったからなのでしょうか?

お釈迦さんとその直弟子の指導が並外れていたから?

彼らの下(もと)に行って受戒すれば、ほどなく数日で覚醒するの?

彼女達のあまたの過去世からの修行の積み重ねが臨界点を超えたから?

修行に打ち込み、一生かかっても、悟れずに亡くなられた方(お坊さん)も過去の歴史にはたくさんいただろうに。

いや、たくさんいたはずです。

女人成仏の考え方とずいぶん離れていますね。

どうにも納得できないし、釈然としない。

・・・。

まあ、無限億万年の信仰者の端くれにもなれない、疑り深い男のひがみです。

お許し下さい。

世界人類が平和でありますように

以上、お釈迦さんに救われた尼僧(にそう)さん達のお話でした。

次回からは、Ⅱ 人生の指針 からになります。

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・釈然~しゃくぜん~疑いや恨みなどのわだかまりが晴れて心がさっぱりするさま。
(用例)なんとなく釈然としない。

・匹敵~ひってき~力が同じようにくらいの競争相手であること。肩を並べること。
(用例)彼に匹敵する者はない。

・徳行~字引載っておらず。

・篤い~あつい~①人情がこまやかで深い。
(用例)友情に篤い。
②病状が重い。
(用例)病が篤い。
ここでは、①の意。

貞淑~ていしゅく~女性のみさおがかたく、しとやかなこと。また、そのさま。
(用例)貞淑な妻。

みさお~①外的な圧力や誘惑に屈することなく、かたく自分の志を守って変えないこと。節操。
貞操。配偶者以外の異性と性的関係を持たないこと。既述しています。
ここでは、②の意。

・婦徳~ふとく~婦人の守るべきであるとされる道徳。婦道。

・耽る~ふける~ある事に熱中する。深く心を奪われる。没頭する。おぼれる。
(用例)読書に耽る。物思いに耽る。

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①追記: 2024/04/13 19:50
②追記: 2024/04/13 19:57
〜訂正内容〜

上記複数回にわたり、本文を加筆・訂正しました。