49 けっして失われないもの
白檀(びゃくだん)、ジャスミンの花の香りは、
風に逆らっては広がらない。
しかし、善き人の徳の香りは
逆境にあっても広がっていく。
(五四) (第4章 花にちなんで より)
S さんのお話をまとめると(要約・意訳・改変などあり)。
世の中に「いつでもどこでも通用する価値」はない(?)。どれも通用するのは、限られている。お金があっても病気になるし、事故に遭(あ)うかもしれない。いくら王様が偉くても、他国となると話は別だ。武器は戦いにしか使えない。スタイルがよくても力仕事とは無関係だ。食事は空腹ならありがたいが、満腹時や腹下しの時には、ありがたいとはならない。
(社会的に)価値がある(とされる)ものを所有しても、それらはいつか無くなる。財産も、社会的地位も、伴侶や家族もいつかは離れる。知識をいくら蓄えても、年をとると忘れてしまう。
私達は、お金や知識や技術や肩書きなどを手に入れ生きている。しかし、これらは自分の外にあるものなのだ。
欲しいものを苦労して手に入れて喜んでも、引き換えに自由を失う。手に入れたものに執着するからだ。入手する苦労、維持する苦労、失われることへの不安や恐れ、失われれば、悲しみまである。
美しい妻や会社の地位を手に入れても、それ相応の苦労があるのだ。
私達は、何かを得ることによって満たされようとするが、こうした心はとても弱いのだ。財産や権力に幸せを感じる人は、それに依存しているのだ。だから、それらが失われれば苦しむことになる。
依存によって幸せを得ようとすれば、また依存を探すはめになる。その繰り返しだ。いくら「自分のものだ」と思っていても、いつかは必ず失うことになるからだ。
しかし、失われないものがある。それは「自分といつも一緒にいるもの」「自分と離れず一体のもの」である。つまり、自分の人格・人徳だ。
これは、風に吹かれようとも、すべての方向ににおい立つ薫(かお)る花のようなものだ。
決して失われることのない(揺るぎない)人格の完成。これこそが、仏教の目的であり、誰もが心の奥底で求めているものなのだ。金儲けや有名になることが人生の目的ではないのだ。どんな状況にあっても、常に自分の人格がよい方向に向いているか否かを確かめて生きることが大切だ。
とのこと。
そうですよね。
仮に生まれたままで一切何も手を加えない体で、成長して今に至った場合、裸になってみて残るものは何かといったら、人格もその最重要な一つですから。
しかし、さらに、一歩をすすめて、安心立命すること。
何があっても動揺せず、不動の心でいることができること。
これが、宗教の目的となると考えられます。
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・香る・薫る・馨る~かおる~①よいにおいがする。
(用例)梅が香る。
②よい雰囲気が漂う。
(用例)風薫る五月。
ここでは、①の意味。
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追記: 2021/05/09 10:05 〜訂正内容〜
本文を加筆・訂正しました。