04 シッダールタ太子の問題意識
適当にいく。
さて、シッダールタ太子は、弱肉強食の世に疑問を持ち、その問題意識で出家修行者となった。やがて悟りを開いて仏陀となり、その問題意識に解答を与えた。
その詳細は後章( 05 人間の内側にある老・病・死 )に譲るべきだ(←こう書いてある)。その解決内容こそが彼が悟った真理であり、仏教そのものだから、彼の悟りの後に述べるべきものである。
私達はここでは、彼の問題意識の方を中心に考察を進めよう(と書いてある)。
ただ。
ひろさんは、日本霊異記(平安時代の初期に薬師寺の景戒(きょうかい)により編集された説話集。正式名は、日本国現報善悪霊異記(にほんこくげんほうぜんあくりょういき)、古(いにしえ)のお坊さん、現代のお坊さんを、かなりこき下ろしている。
お釈迦さんの弱肉強食に対する解答は、これらの人達に見られるような俗流仏教ではない、そう断言できよう、と。
ひろさんは、お釈迦さんが弱肉強食に対して見い出した解答は、強者に弱者にやさしくしなさい、つまり、小鳥なら虫に対して、猛禽類なら小鳥に対して、やさしくしてあげなさい、と説教するものではないと強調する。
ここを間違ってもらっては困る、と。
強者が弱者をいじめる、例えば、暴力団員が年寄りをいじめる、企業が社員をリストラする、こうしたことに対して、強者の暴力団員の人や企業の経営者に、あなた方はやさしい心を持たなければなりません、と説くことが仏教の教えと思い込んでいる、錯覚しているお坊さんがごまんといる、として、これらは、ライオンにシマウマにやさしくしてあげなさい、と説くのと同じではないか、現代の日本のお坊さん達は、仏教がまったくわかっていない、としている(つまり、ライオンにあなたはシマウマを補食してはいけませんよ、といっても通じないことと同じような筋違いなことをしていると言いたいらしい)。
現代のお坊さん達ばかりではなく、昔のお坊さんもひどい勘違いをしているとして、ひろさんが槍玉(やりだま)にあげているのが、日本霊異記である。
これは世の人々に、善行をすすめるべく、善行に対する善い報い、悪行に対する悪い報い、がそれぞれあるという類いの不思議なお話を集めたものだ。
その中の一つのお話が例に上げてあるのだが、ひろさんは、あまりご機嫌がよろしくない。
すなわち、以下の通り。
中巻第十ニ。
山城国紀伊郡(京都市伏見区)に慈悲深い女性がいた。そこの子供達が 8 匹のカニを生け捕り、焼いて食べようとしていた。女性は、自ら着ている衣と引き換えるように子供達と交渉してカニの命を助けた。
その女性は、山に行った時に、大蛇(大ヘビ)がカエルを食べようとしているのに遭遇する。女性は、お供え物をあげるから、カエルを助けてと大蛇に頼むが、大蛇はこれに応じない。
ならば、と女性は自分があなたの妻になるから、と申し出てカエルの助けを求める。
すると、大蛇はその交換条件を飲み、カエルを吐き出した。
やがて、大蛇の妻になると約束した日が来た。大蛇は女性を迎えにやって来る。
女性の両親は悲しみ、女性自身も後悔をし、家の戸を固く閉じて仏法を信じて身を固くしてじっとしていた。
女性は助かった。というのも、以前助けた 8 匹のカニがやってきて、大蛇をズタズタに切断してくれたからだ。
だから、よいことをしなさい、するとこんないいこと(報い)がありますよ、と日本霊異記は語っている。
だが、私(←ひろさんのこと)は腹立たしくなる。
なぜならば、大蛇はちっとも悪いことをしていない。大蛇はカエルの命を口約束(契約)通り助けた。それなのにカニに殺されるなんて不公平だ。
女性の方が約束を違(たが)えてウソをついている。女性の方が地獄に堕ちるべきではないのか。
それでも大蛇が悪いと言うのなら、それは蛇が蛇であってはいけないと言っていることになる。
ヘビ(大蛇)がカエルを食う。それが自然の摂理だ。もしヘビにカエルを食うなと言うのなら、あなたは牛も豚も魚も食べてはいけない。
日本霊異記が語っているのは、俗流仏教であって、本物の仏教ではない。
弱肉強食に対する釈迦の解答は、そのような俗流仏教ではなかったはずだ。そのことだけは断言できよう。
ともあれ、俗流仏教は、困ったものである、と。
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・俗人~ぞくじん~①世俗のありふれた人。世人。
②名利などにとらわれて風流を解さない人。
③僧でない人。在家。
・名利~みょうり~(世俗的な意味での)名誉と利益。
・仏法~ぶっぽう~仏教語~仏教。仏(←お釈迦さんのこと)の教え。←→王法(おうぼう)。
・王法~おうぼう~仏教語~(仏教の立場から)国王の施す国家統治の法令・政治をいう語。←→仏法。
・王法~おうほう~①王の守るべき道。
②国王が国を治めるために出す法令。
・違える~たがえる~①違わせる。合わないようにする。
(用例)方法を違える。
②決めたことを破る。
(用例)約束を違える。
ここでは、②の意。